愛するペットの死・・・うつ状態に
家族の一員としてかわいがってきた犬や猫が死ぬと、精神的なダメージを受ける人は少なくない。こうしたペットロス（喪失）の状態が長引くと、「ペットロス症候群」と呼ぶ心の病に発展し、うつ症状などに悩むことになる。心のケアを怠らずに、ペットの死を受け入れることが大切だ。
都内に住む三十代の独身女性のBさん。パートナーとしで一緒に暮らしてきた猫の死をきっかけに体調不良が起きた。食欲不振が続き、仕事にもまったくやる気が出ない。ほぼ一年近くもこうした状態が続いたという。
ストレスケア日比谷クリニック（東京・千代田）の酒井和夫院長が診断した結果、Bさんはペットロス症候群によるうつ病になっていることが分かった。猫をかわいがるあまり、ペットと自分は一心同体と考えていた。Bさんは自分の一部を失った喪失感を味わい、やがて自責の念にかられるようになって精神的に追いつめられていった。
酒井院長はBさんに心理療法を実施。ペットを擬人化して、ペットの立場から一緒に暮らしてきた生活を振り返るようアドバイスし
た。「動物にも�狄由�″がある。擬人化することで自分とは違う存在であることに気づき、自責の念から解放される」と酒井院長は説明する。カウンセリングを継続し、Bさんのうつ状態も改善していった。
核家族化や結婚しない人が増え、犬や猫に親子、夫婦以上の愛情をそそぐ人も増えている。ペットフード工業会の全国犬猫飼育率調
査によると、2004年度の飼育数は犬が一千二百万匹、猫が一千百万匹を突破した。室内飼育率は犬が六割、猫が七割と「犬猫の家族化傾向が続いている」（同工業会）。
ペットとの間に適度な心の距離を保つことができなくなると、ペットロスは深刻化する。「飼い主の数％が病的なべットロス（ペッ
トロス症候群）になる可能性がある」と日本ペットロス協会（川崎市）の吉田千史代表は推測する。患者数は今後も増えるだろう。
悲しみ 閉じ込めないで
ペットロスから心の病に発展していかないようにするにはどうするか。臨床心理士でもある吉田氏は、「ペットロスヘの正しい知識を持って対処すること」という。長年かわいがってきた犬や猫がいなくなると気分は落ち込み、不安にもなる。罪悪感も生まれて無気力にもなる。不満や怒り、敵意となって表れることもある。
こうした感情はペットロスでは何もおかしいことではない。むしろ正常な反応で、「悲しみを押し殺さず思いきり泣くのがよい」（吉田氏）という。悲しい気持ちを内に閉じ込めるのではなく、ゆっくりと開放していくと現実も受け入れやすい。
また、一人でペットの死を悲しむのではなく、ペットに理解がある知人や家族らに、飼っていた犬や猫との思い出話などをして、心
の整理をつけることも大事だ。日ごろからペット仲間がいると、こうした行動を取りやすくなる。
ペットの死から一、二カ月経過すると、あきらめがつくようになり、気持ちの整理もできてくる。新しく犬や猫を飼いたいと思うよ
うにもなる。
ただ、こうした悲嘆からの回復がみられずに、むしろ感情の不安定さが増し、不眠や食欲不振、体重減少などがあると、ペットロス
症候群になっている可能性が高い。うつ病や死恐怖症、心的外傷後ストレス障害（PTSD）など病気の種類は様々で、治療法も変わってくる。二カ月たっても悲しみが減らないどころか、むしろひどくなっている人は、一度、精神科医や心療内科医、臨床心理士などに診てもらうことだ。
ペットロスでの心の変化
ペットの死
↓
第一段階 ショックのあまり現実から目をそむける。
強烈な悲しみはむしろ感じにくい。
↓
ペットロス症候群 ← 第二段階 悲しみが深くなり、様々な感情があらわれる。
心のケアが
うまくいかないと ↓
第三段階 現実を受け入れるようになり
ペットのいない環境に慣れてくる。
↓
第四段階 立ち直り、元の生活に戻る。
新しいペットを飼いたい気持ちも。
日本経済新聞2005年9月27日より
グリーフ・ワーク
愛する対象を失ったことを嘆き悲しむこと。 
