うつと不眠、密接

   これまで不眠(睡眠障害)は、うつ病の症状の1つと考えられてきた。しかし、最近の研究で睡眠障害がうつ病を引き起こしたり、睡眠を改善するとうつ病がよくなったりすることなどが分かってきた。また、日本で行われた大規模調査の分析から、睡眠時間は短過ぎても長すぎても、うつ状態になる人が多いことが初めて明らかになった。

 「うつ病になると睡眠が異常になる。不眠はうつ病の90%で見られ、最も重要な症状。しかも、不眠はうつ病に特徴的な抑うつ気分や興味の喪失などの症状に先行して現れることが分かっている」と日大医学部の内山真教授(精神医学)。
 米国では、最近までうつ病の不眠は、病気の治療が進めば改善するとして、睡眠薬による治療は不必要とされてきた(日本では睡眠薬を投与)。
 しかし、積極的に睡眠薬で治療すると、抑うつ症状改善が早いことが比較試験で証明され、睡眠薬を使うようになった。
 「問題は、うつ病と不眠の関係については、詳しいデータが世界的になかったこと」(同教授)

7時間程度の眠り最適
 長過ぎても駄目
 今回、日大医学部の兼板佳孝講師(公衆衛生学)らは、2000年の旧厚生省保健福祉動向調査のデータを活用、睡眠とうつの関係を解析した。
 対象は、全国から無作為抽出した男性約1万2千人、女性1万3千人の成人計約2万5千人。
 その結果、従来、うつと早朝覚せいが強い関連があるとされていたが、今回の解析で、うつと最も強い関連があるのは入眠障害であることが明らかになった。
 また、睡眠時間が7時間より短くなればなるほど、また8時間より長くなればなるほど、うつ状態になっている人が多いことが初めて分かった。
 寝酒についても調べたところ、熟睡とは逆に、睡眠中に途中で目を覚ます中途覚せいが明らかに多いことが分かった。
 内山教授は「不眠はうつのリスクを高めることが1980年代後半から、米国の疫学研究で分かってきた。特に高齢者は3年ぐらいの短い不眠状態でも、うつになるリスクが高い。65歳以上で、不眠のある人は3年後にうつ病になる危険率が3.22倍になるとのデータが出ている」と話す。
 断眠療法で効果
 長期経過でも、やはり不眠がうつのリスク要因になるらしい。1950年までの米ハーバード大に入った学生を対象にした追跡研究では、60年代に不眠の人は、77年、88年時点でうつの危険率が約三倍になっていたという。
 一方、睡眠の操作でうつ病の症状が改善することが知られてきた。これは「断眠療法」と呼ばれ、ドイツなどで実施されていて、効果が証明されている。また、不規則な形で長い睡眠を取ると、うつ病が再発するという例も知られてきた。うつ病の治療や再発防止に生かせるかもしれない。
 内山教授は「不眠はうつ病のリスクを高めるようだ。不眠とうつ病の背景素因がオーバーラップしている可能性がある」と話している。
2007年1月1日「岐阜新聞」より