引きこもる若者 親はどうする

力ずくの収容は危険

 引きこもる若者の中には、家族への暴力やアルコール・薬物などの問題を抱える場合もある。疲れ果てた家族がわらにすがる思いで、頼る先が民間施設。しかし、本人の意思を無視して支援を始めると、力ずくの収容、身体拘束といった危険を生む恐れがある。
 引きこもりに詳しい精神科医の斎藤環さんは、暴力を伴う引きこもりへの対応として施設入所よりも「警察への通報」と「親自身の避難」を勧める。
 本人が暴力をふるった直後などに警察に通報すれば、暴力を許さないという家族の意思が伝わり、本人の罪悪感が目覚める。
 また、暴力が進行して手に負えない場合は、逃げること。その際には電話で子どもと連絡を取り「暴力が収まれば必ず家に戻る」と伝えることが大事だと言う。

暴力を伴う場合
まず警察に通報を親自身が避難する


 この分野の専用施設は全国に約五十あるが、公的助成がなく、行政の監督権限もないため、運営方針や専門性などのばらつきは大きい。
 引きこもりやニートの支援に取り汲むNPO「育て上げ」ネット(東京都)の工藤啓理事長は、施設選びのポイントとして●本人の希望を尊重する●個人のスペースがある―を挙げた。
 「入所する場合は通常、事前に説明を受け、見学・体験、入所の手順を踏む。本人の希望を最大限尊重するのが本来の姿。また、密接な人間関係を築くには、大部屋の効果もあるが、人間関係を築くことが苦手な若者が多いので、個人スペースを適切に確保するのが
最低条件」という。
 また、本人や家族はさまざまな悩み、課題を抱えているため「問題を整理し、必要な情報を提供できる相談機関の充実が不可欠」と強調した。

〜以下省略〜

2006年5月18日「中日新聞」より抜粋





無理やりでは状況悪化

岐阜大医学部 高岡健・助教授

 引きこもりは、人間の社会とのかかわり方の一つ。いったん社会から完全に身を引くことがその人に不可欠だから、引きこもっている。何もしていないのではなく、自分を見つめ、必死で将来を考えている。それを悪いことのように親や社会が考え、本人が罪悪感を持つと、自分を見つめる意義を失い、本格的な引きこもりにつながる。親が「働け」と言うと、我慢できなくなり、暴力が出てくる。

 人間は誰でも、小さな引きこもりを体験して成長する。学校を適当にサボり、どこかで立ち止まり、無駄な時間を過ごしている。本格的に引きこもりになるのは、それができなかった人。無遅刻無欠席で高校や大学を卒業した人が、ある日、突然、引きこもる。今までできなかったことを取り戻すために。

 引きこもりが増えているのは、社会のシステムが崩れたことが大きい。終身雇用の時代は自分について深く考えなくても生きていけた。しかし、現在は将来が安泰するモデルがなく、若者が価値観や生き方などをすべて一から確立しないといけない。個性的な生き方がもてはやされる風潮も、引きこもりの長期化に拍車をかける。必要なことは、まず、「引きこもってもいい」という保証をしてやること。無理やり引き出しても状況は悪化するだけだ。

2006年5月30日「中日新聞」より


解決に向けて

 自分たちだけで抱え込まず、まずはどこかに相談して下さい。

 精神保健センターや保健所、精神科、民間の相談機関、引きこもりの家族の会などまずは相談しやすいところで構いませんので相談してください。引きこもりの背景に心理的な問題だけでなく、精神障害がある場合もあります。自分たちだけで抱え込んだり、現実逃避しないためにも第三者の意見を取り入れることをおすすめします。さらに、相談先での対応に疑問をお持ちの場合は直接そこに疑問を投げかけるか、違う相談機関にあたってみて下さい。