ネグレクト

2006.07.14
正常な判断がマヒ

 「ネグレクト」という言葉は、かなり知られるようになってきた。簡単にいえば、保護者が子育てを怠ったり、拒否したりすること。子どもにごはんをきちんと与えない、不衛生な環境の中で生活させる、病気になっても医療を受けさせない、学校に行かせない、といった状態を指す。

 ネグレクト家庭に共通するのは、家の中が信じられないほど乱雑なこと。

 以前、東京都の児童相談所が子どもを保護したケースでは、二階建ての家の一階がごみで埋まり、浴槽も使えない状態で、子どもたちは流し台の湯沸かし器を使って体を洗っていた。名古屋市で1997年に女児が衰弱死した事件でも、生ごみや猫のふんの悪臭がたちこめる家の中で親子六人が暮らしていた。

 どうしてこんな状態になってしまうのだろう。

 子どもの虐待防止に取り組む支援者は「何らかの問題をかかえ、正常な判断力がまひした状態」と説明する。

 たとえば、パチンコに夢中になって多額の借金をかかえ、現実感が乏しくなって、いつも夢の中にいるような状態の人、夫婦関係が冷たくなって、それぞれ殻にこもり、子どもへの関心も失ってしまった人、他人に見下されるのを恐れて周囲の援助を拒否するうち、生活を立て直す意欲を失ってしまった人、などだ。

 子どもが衰弱死する事件が起きると、多くの人は「鬼のような親だ」「子どもにそんなことをするなんて信じられない」と思う。しかし、事件の一歩手前の、ストレスをかかえ生活をうまく営めなくなった親たちは決して特異な存在ではない。本来の姿に戻れるように援助する必要がある。

 成長期の子どもがやせ細り、いつもおなかをすかせ、不潔な服装をしていたら、ネグレクトのサイン。気づいた人は児童相談所などに連絡し、親と子への援助を一緒に考えていくことが、悲劇を未然に防ぐ道だ。
2006年6月28日「中日新聞」より